主な整備内容は次の通りです
1) ネットワーク改造
2) ウーハーコーンのクリーニングやフレームの再塗装
3) ツイーターのクリーニング、保護ネットの補修、再塗装
4) エンクロージャーの補修と再塗装
5) 入力端子の交換
・ネットワークのコイルは全て空芯コイルに交換。コンデンサーは全てフィルムコン
デンサーへ交換。パーツは全て
方向性を管理
して正しい方向に取り付けています。
・空芯コイルには制震処理を施しています
・
プッシュ式
入力端子は安定性に欠けるので、バナナプラグも使用できる端子に交換
(元がPROやSTUDIOの場合は現状です)
・スピーカーフレームに錆が出ている場合は錆を落として再塗装
・マグネット周りに錆がある場合も錆を落としています
・ツイーターの埃や汚れの除去
・ツイーター保護ネットのつぶれや変形の補正、再塗装
・ウーハーコーンはシミや黄変色は限界まで落とします
・エンクロージャーの傷やヤケ、塗装のハゲは出来るだけ補修して再塗装
・サランネットは取り除ける汚れは落とします。入手したときの状態で小さい破れや
ほつれ
が有ることがあります。入手時に欠損していたり破損のひどい物は付属しません。
STUDIOモデルは元々サランネットはありません
完成後100時間以上の鳴らし込みを行ってから出品しています。
以下説明が長くなりますが、最後まで読ん頂けたら幸いです。
NS-10MはYAMAHAが1978年に高性能小型モニタースピーカーとして発売されました。
上位機種に通じる精悍なデザインでヒット商品になり、やがてその性能をプロの現場
でも認められ、世界中の多くの録音編集スタジオにも導入されています。
当時としては小型のブックシェルフ型の密閉エンクロージャーに、18cmウーハーと
3.5cmツイーターを搭載し、明るく明瞭な音質で多くのファンを作り「テンモニ」の
愛称
で愛され続けました。
オリジナルの発売後何種類かの派生機種が存在しますが、NS-10M、NS-10M PRO、
NS-10M STUDIOはスピーカーユニットとネットワークはほぼ同じ構成で、違いは
耐入力、入力端子とツイーター回りのスポンジ、ツイーター保護ネットの形状位です。
ネットワークはフェライトコア入りコイル(φ1mm,φ0.8mm)とウーハーに電解コン
デンサ。
ツイーターにヤマハお得意のMPコンデンサという構成は全く変わりません。
使用されているMPコンデンサはあのセンモニと同じ物が使用されているようです。
テンモニの音質を語るときによく言われるのが、高域がキンキンする、キツい
という
ものでした。あるプロの現場ではツイーターをティッシュペーパーで隠している、
という
ことが紹介されて、皆がまねをしたそうです。後発のPRO、STUDIOではツイ
ーターの
コーンの外側にスポンジが貼られているのは、YAMAHAが対策した結果とい
うこと
でしょう。
私自身オリジナル、PRO、STUDIOと購入し試聴しましたが、それぞれの仕様によっ
て
音質にそれほど変化は無く、ほぼ同じということが確認できました。
それよりどのような使い方、鳴らし方をされていたのか判りませんが、エンクロージャ
ー
は傷だらけ、ウーハーの白コーンは変色してシミだらけ、ツイーターはネットがあっ
て
掃除できないのでベッタリと埃が積もっていたり、どれもハードに使われていた印象
の
テンモニばかりでしたが、いざ鳴らしてみると程度の差こそありますがどれも水準以
上
の見事な鳴りっぷりで感心しました。
これこそプロの現場で長い間支持されていた証左です。
さて何台ものテンモニを試聴すると
音色は殆ど変わらないのに音像定位や音場
再生に差があることが分かりま
した。
テンモニに限らず市販のスピーカーにはよくある
ことで、一般的には「個体差」
で
片付
け
られてしまいます。これはフルレンジスピーカー
には無いことで、これが
フル
レンジ
愛好
家の心を惹き付ける一つの要因とも言えます。
2WAY以上のスピーカーには何故このような「個体差」が生まれるのでしょうか?
それはフルレンジスピーカーには無い”ネットワーク”を使用していることに他なり
ませ
ん。
それではネットワークを使用すると何故「個体差」が生まれてしまうのでしょうか?
2WAYを例にすると、アンプから入力された信号をウーハーに低音、ツイーター
には
高音と振り分けて送り出す役目をしてるのがネットワークです。
ネットワークには通常コイル(L)とコンデンサー(C)が使われていて、それによっ
て
音声信号を分割しています。
ここで大切なことがあります。
コイルやコンデンサは導体を巻いて作っていますが、巻いている物には必ず”巻き始め
と巻き終わり”があることです。テスターで測定しても数値には決して表れることは
ありませんが、間違った方向に組んでしまうと音像や音場の再生に影響を与えます。
これは残念なことに今のメーカー製品では忘れられています。
コイルの場合、多くは巻き始めと巻き終わりは見た目で判ります。しかしコンデンサー
は判りません。市販では最近のムンドルフの一部のフィルムコンデンサーにはリード
の
長さで判別出来る物もありますが、多くの製品は見分けは付きません。
そこではテンモニの内部を見てみましょう
珍しくネットワークは基板ではなくラグに直接半田付けして組まれています。スピーカ
ーユニットも半田付けです。音質と耐久性の良さはこれからも判ります。プロの現場で
愛され続けるわけです。
ネットワークには低域用と高域用にそれぞれコイルとコンデンサーが使われています。
ウーハーはφ1mm、ツイーターはφ0.8mmの鉄心コイルでした。鉄心入りです
がこれ
だけ太い銅線の大きなコイルを使用しているのはこのサイズ、価格のスピーカー
として
は驚きです。他のメーカーではもっと細い銅線のものが使われています。鉄心コ
イルは
鉄損失を利用して同容量のコイルを小型、低価格化できるメリットはありますが、
歪み
や反応速度では空芯コイルには到底及びません。
次にコンデンサーを見てみると、ウーハーに電解コンデンサー、ツイーターにMPコン
デンサーが使われています。MPコンデンサーはYAMAHAお得意の技術らしくセンモ
ニ
にも使われていますが、高レベルの高音を再生するとキンキン耳障りな印象がする
の
はこのコンデンサーのせいかも知れません。オリジナルではどちらも似たような印象
の
再生音です。MPコンデンサーは長寿命ですが高域の歪みっぽさは頂けません。
次に電解コンデンサーですが、これは全く話になりません。寿命が短かく反応が鈍い、
メリットは小さくて安価なだけです。大きなMPコンデンサーを使っているのにどうし
て
こちらを電解で済ませるのでしょうか?スペースファクターとコストダウンしか考えられ
ません。MPコンデンサーで10μFを作ると小さい缶コーヒー位の大きさになるでしょうね。
私の経験ですが、どんなに良質な電解コンデンサーを使用しても、電気的な
特性の優
れているフィルムコンデンサーを使用した方が音質は良くなります。
これは間違いありません。
次に吸音材です。テンモニは密閉型なので比較的大量のグラスウールが入れられて
いま
す。しかし外部から埃の侵入などが無く、どれもくたびれた様子も無くしっかりして
い
ます。よく吸音材は少ない方が良い・・なんて迷信のように言われていますが、きちん
と試聴すれば吸音材を必要以上に減らしたスピーカーはエンクロージャー内部の音が
消
えずに外に漏れて遅れた反響音のような付帯音として耳に届いてしまいます。
いかにも潰れて痛んでいる場合
を除き入れ替える必要はなさそうです。
最近の多くの小型スピーカーは
超高域まで再生可能にするため、ツイーターの
低域側の周波数帯域が狭く、高い周波
数(3kH以上はざら)
で
クロスオーバー
を設定しています。ウーハーには
フルレンジスピ
ーカーを使用して
ツイーターを高い周波
数だけで使うとネットワークを
小さく出来ます。
つまり簡単にコスト
ダウンが計れるのです。
改めてテンモニを試聴すると
丈夫なエンクロージャーで鳴きが少なく、箱鳴りは聞
こえません。低音はタイトですが
密閉のため共振で間延びした低音は聞こえません。
特に出色なのはツイーターでしょう。ダイナミックレンジが広く且つ周波数レンジも広
く
クロスオーバーは2kHzになっています。これはとても重要なことで、音楽情報の美味
しいとこ
ろの殆どがこのツイーターの領域に入っています。
ユニットメーカーの面目躍如といったところでしょう。流石です。
ネットワーク改造したテンモニを聴いてみると
シビアにセッティングしなくてもステ
レオ
再生でありながら前後左右に均一に広がった
音場空間が再生されます。空間の中に
音像が形成されてスピーカーから音が鳴って
いる感じは全くしなくなります。もちろん正確にセッティングすることで、アーチストが
音楽に込めた思いを漏らすこと無く、素晴らしい音楽として受け取る
ことが出来ると
思います。
スピーカーは方向性を管理したネットワークが全てと言っても過言ではありません。